題目 集団の地位か人とのつながりか −社会的アイデンティティ-プロセスの日米比較−

 

氏名 五戸保子

 

指導教官 結城雅樹

 

 日常生活の中で、所属集団の為につい頑張ってしまったり、無理をしたり、といった経験は誰もがしていることだろう。本論文では“人をうまく働かせるには何が必要なのか”を探るため、日米の内集団忠誠心に注目し、集団認知の傾向と内集団忠誠心の関係について、またその文化差についても検討した。

 Yuki & Brewer1998は、SIT、SCTが主流であったアイデンティティ研究に比較文化的視点からとりくみ、自己概念と集団表象の組み合わせによる2つのモデルを提案した。それらのモデルとは、「集合的自己と均質的集団表象」と、「関係的自己とネットワーク的集団表象」の二つである。モデルとの関連から内集団忠誠心の獲得のプロセスも文化により異なり、欧米では“自己カテゴリー化プロセス”が、東アジアでは“ネットワークプロセス”が優勢であるとしている。この主張に基づき、本研究では4つの集団認知変数を測定し、内集団忠誠心との関連を検討した。その際、評価尺度として「内集団評価」「集団文脈での自己評価」、同一視尺度として「成員との同一視」「カテゴリーとの同一視」を測定し、それらが内集団忠誠心に与える影響についても検討した。

内集団認知変数については、内集団忠誠心獲得のプロセスが日米で異なる可能性は示唆されたものの、アメリカでは“自己カテゴリー化プロセス”が、日本では“ネットワークプロセス”が優勢であることを示すのに十分な結果は得られなかった。

 評価と同一視については興味深い結果が得られた。評価については、アメリカだけでなく日本でも、内集団忠誠心に対する内集団評価の効果が見出された。同一視尺度については、アメリカではカテゴリーとの同一視が強く影響する一方、日本では成員とのパーソナルな同一視が内集団忠誠心に与える影響が強かった。同一視と評価の4変数の説明力を比較した結果、日米ともに内集団評価の効果があったが、日本では成員との同一視、つまり成員との一体感の影響力が最も強かった。一方アメリカでは内集団評価、つまり集団の地位の知覚が最も強く影響していることが分かった。この結果から、アメリカ人をうまく働かせるには、集団がいかにすばらしいかを強調するのが効果的であるといえる。日本人の場合は、集団の人間関係をよいものと感じさせ、集団成員間につながりを意識させることが必要であろう。


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