題目:合理的集団意思決定

 

氏名:上田 宮紀

 

指導教官:亀田 達也 助教授

 

 日常の集団意思決定場面で多数決は当たり前の様に頻繁に使われており、過去の実験的な研究でも集団討議場面で多数派主導型の社会過程が生じやすいことが示されている(e.g., Davis  et al.,1975)

 ところが、伝統的な集団意思決定の研究では、社会的選択理論の立場から、決定規則の‘論理的一貫性’について議論が行なわれ、民主的決定方式としてよく用いられる多数決規則も、「論理的に重大な矛盾をきたすことがあり、非民主的な側面をもつ」と批判されている。それではなぜ、人々はそのような決定規則を使うのだろうか。

 本研究では‘不確実な環境への適応’という新たな視点から多数決規則を見直し、人々が多数決規則を用いる理由を探ることを目的とした。レンズモデルと呼ばれる知覚モデル(Brunswik, 1959)を用いて、複数の狩人がグループで狩り場の決定を行うという原始時代的な状況を想定したシミュレーションを行い、集団決定場面におけるさまざまな集約規則のパフォーマンスを比較した。

 Gigerenzer1996)は、不確実な環境でどのような集約規則が高い遂行をあげるか、という‘決定規則の実用性’という視点で個人の意思決定を捉え、個人の意思決定場面において、速くてシンプルなヒューリスティックスが複雑な線形モデルと同じくらい良い成績を示し、きわめて適応的であることを示した。本研究では、集団意思決定場面においても同様のことが言えるということが明らかになった。

 一連のシミュレーションの結果から、多数決規則は計算量が少なくシンプルな集約アルゴリズムであるにも関わらず、複雑な計算を行う集約規則に劣らず誤差を上手く処理することができ、環境が変化しても汎用的に有効に使うことができることが示された。多数決規則は不確実な環境において適応的なヒューリスティックスであると考えられる。

 このように、決定規則の‘論理的一貫性’について議論を行う従来のアプローチとは異なり、‘環境への適応’という視点から決定規則を見直すことによって、日常の集団意思決定場面で多数決が頻繁に使われていることに対し、「多数決規則は速くてシンプルな方法で、集団の決定場面で高い遂行をあげることができるから」という理由を導くことができる。

 

 


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