題目:顔は心の窓 −他者の感情判断に関する探索的研究−

 

氏名:高城 和明

 

指導教官:山岸 俊男 教授

 

 表情から感情を読む能力は、生得的なものではなく後天的に学習されるものであり、人間が社会活動をするのに適応的であると考えられる。つまり、他者の感情を理解するということは、社会的環境における基本的な適応課題を解決するための能力であると考えることができる。山岸(1999)はそのような「社会的環境における基本的適応課題を解決するための能力」を「社会的知性」と定義しており、このことから表情読み取り能力は社会的知性の一つであると考えられる。本研究では、どのような特性が表情読み取り能力と関連しているかを実験によって調べた。

 表情読み取り能力を測定する課題として、Baron-cohen & Jolliffe1997)によって作成された”Eyes Task” と呼ばれる課題がある。これは目の部分の写真から人物の感情を推測する課題である。このEyes Taskは、本研究では表情読み取り能力を測定していると考えている。同時に、目の部分の写真から人物の性別を推測するGender Task、顔全体の写真から感情を推測するEmotion Taskが実施された。

 本研究では、Eyes TaskGender TaskEmotion Task3課題を用い、表情から他者の感情を推測する能力と、心理尺度によって測定される様々な人格特性や、山岸(1999)で取り上げられた社会的知性との関連について検討した。

 その結果、Eyes Taskの正当率と、他者のPDでの行動をどれだけ正確に予測しているかを示す指標との間に有意な負の相関がみられ、表情読み取り能力とPDの行動予測の正確さが相互背反的な関係にあることが示唆された。また、Gender Taskの正当率と、集団内でのペアの仲の良さをどれだけ正確に評定しているかを示す指標との間に有意な正の相関がみられ、人間関係の理解の正確さとGender Taskの正当率は関連があると考えられる。さらに、人間関係の理解という点で、男性は社会的孤立との関連がみられるのに対し、女性では仲間との関係を維持し活用することとの関連がみられ、性差があることが示唆された。だが、表情読み取り能力と関連する人格特性については明確な知見は得られず、今後この点に関する研究が必要であろう。


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