題目:自己高揚は本当に起こるのか?

 

氏名:石井和朗

 

指導教官:山岸俊男

 

これまでの欧米での研究では、人は自己の能力をより高く評価しようとする傾向があることが示されている。これを自己高揚傾向と呼んでいるのだが、北山ら(1991, 1998)は文化心理学的な説明によって日本では自己高揚が起こらないと主張している。自己とはなんらかの社会関係の中で存在するものであると考える相互依存的自己観が日本では優勢であり、ある社会関係の中に自らをはめ込むために自己の望ましくない属性に選択的にチューニングが合っているために自己高揚は起こらないとするのが文化心理学的説明である。自己評価し得る能力はたくさん存在するが、この説明によると日本ではまったく自己高揚が起こらないことになる。

日本人はよくほんねとたてまえを使い分けるといわれる。たしかに実際の生活の中で常にほんねだけを用いている人は日本人には少ないのではないだろうか。村本・山口(1994)によると、日本では自慢する人よりも謙遜する人のほうが好意的な印象を持たれ、さらに能力も高く評価されるという。つまり日本では自己高揚よりもむしろ、それとは逆の自己批判が望ましいとする社会規範が存在しているというのである。このような社会規範が存在していれば人は自己高揚する他者に対して反感を持つだろう。また、他者からのネガティブなフィードバックを予想して自分自身が自己高揚することに抵抗を感じるはずである。そこで、本研究ではこのような反感や抵抗感としてあらわれる社会規範が自己高揚を起こりにくくさせているのではないかと考え、次のような仮説を立てた。

仮説1:反感や抵抗感の高い能力では自己批判が起こる

仮説2:反感や抵抗感の低い能力では自己高揚が起こる

以上の仮説を検討するために、10項目の能力について自己評価し、それぞれについて社会的望ましさ、その能力があると言う他者への反感、自分にその能力が備わっていると言うことへの抵抗感の程度を記入するという形で調査を行なった。分析の結果、「頭の良さ」や「容姿」などは反感、抵抗感ともに高く自己批判が起こり、「協調性」、「将来の生活の良さ」などでは反感、抵抗感とも低い値となり、自己高揚が見られた。また、重回帰分析の結果、抵抗感の高いものほど自己高揚が起こりにくくなることが示された。以上の結果より仮説は支持された。

本研究によって、能力などの条件によっては日本人でも自己高揚が起こることが示された。


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