共感の多次元性についての探索的研究

 

井本麻乃

 

山岸俊男 教授

 

 本研究では2段階の分析を行った。第1段階は、共感性尺度がどのような下位尺度から構成されているかを、質問紙を用いた数種類の共感性尺度測定法の回答に対して主成分分析を行い検討した。第2段階では、おもに社会的知性を行動面から測定した実験のデータを用いて、社会的知性と共感性尺度との関連を、相関分析を行い検討した。

 数種類の共感性尺度をまとめて主成分分析を行った結果、4つの因子が抽出された。質問内容から、それぞれを「役割取得を含む認知的共感(役割)」、「想像力にもとづく感情移入による共感(想像)」、「不安・おびえによる感情伝染的共感(不安)」、「他者の感情表出への同情的共感(同情)」とした。

 次に、4種類の共感と実際に測定した社会的知性や質問紙回答で得た心理尺度変数との関連を探り、各共感の相違点、類似点を探った。社会的知性は、大きく3つに分類される。1つめは「写真読解」で、顔や目の写真から、写真人物の感情や性別を把握できるかを測定したものである。2つめは「行動・予測」で、囚人のジレンマゲーム(PD)における周囲からの協力されやすさ、他者の行動予測の正確さや、自分が相手だった場合の行動予測の正確さを計測したものである。3つめは「関係把握」で、自分の属する集団について、構成員同士の仲のよさの把握の正確さ、構成員からどの程度仲よしと思われているか、また自分が相手に対して思っている仲のよさと相手の回答がどの程度一致しているかを計測したものである。

 結果、「役割」の高い人は写真読解能力に長け、PDで協力されやすく、心理的に高い適応感を持つこと、「想像」の高い人は表情読みとりはできないが、関係把握や行動・予測、特に自分が関わったときの予測能力が高く、心理的には集団に対する用心深さを持っていて、他者から仲がよいと思われやすいこと、また、「不安」が高いほど、集団内で仲が良いと思われず、PDにおいても協力されなくなっていることが明らかになった。なお、「不安」と「同情」は独立であることから、他者の感情に対する敏感さ・関心が、否定的な形で表れたのが前者であり、肯定的な形で表れたのが後者である可能性も示唆された。

 以上4種類の共感が、社会的知性や心理尺度変数との関連において明確な違いをみせたことから、異なる性質をもつものが共感という言葉でひとくくりにされている現状が把握できたといえる。


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