題目 あぁ、後悔

 

氏名 青柳利枝

 

指導教官 亀田達也先生

 

 意思決定に関する研究分野において、感情が行動に与える影響、行動が感情に与える影響の重要性が注目されて久しい。なかでも、後悔という感情は、人間の意思決定の過程で生じている感情であり、特に“結果は同じでも、やってしまったときのほうがやらなかったときよりも強く後悔する”という興味深い現象が発見されていた。だが、実験によって純粋に後悔の程度が比較され、その現象が確認されたことはなかった。

 そこで、本研究第一の目的は、“やってしまった後悔のほうがやらなかった後悔よりも大きいかどうか”を単純な実験を行って確かめることであった。カードを交換するか交換しないかで100円がもらえるかもらえないかが決まるという単純なゲームを行うことで、行動して失敗する条件と行動しないで失敗する条件とを設定した。さらに、質問紙で“どれくらい後悔しているか”を尋ね、後悔の程度を直接測った。その結果、仮説通り、やってしまった後悔のほうがやらなかった後悔よりも大きいことが示された。

 また、本実験では、被験者1人につきゲームを10回繰り返して行ったため、ある試行で感じた後悔の程度が、次の試行の行動にどのような影響を与えているのか等を検討できた。そこで、本研究第二の目的として、後悔という感情が人間の意志決定に与える影響について、探索的検討を行った。その結果、分かったことをまとめる。まず、自分がとった行動の違いが感情に影響するという現象は、唯一後悔にしか見られなかった。次に、後悔の差はゲームの最初から存在していた。さらに、やってしまった失敗経験を積むにつれ、やってしまった後悔をそれほど強く感じなくなるものの、なお、やってしまった後悔のほうがやらなかった後悔よりも大きいという差は消えなかった。以上から、やらなかった後悔よりもやってしまった後悔のほうを強く感じるという傾向は、人間に根強く備わった心理的特性であると考えられる。

 “交換したときのほうがより強く後悔する”ということを、“手元にあったカードを交換してしまったときのほうがより強く後悔する”と言い換えれば、後悔という感情に見られた心理的特性は現状維持バイアスの現れであるとも考えられる。現状維持バイアスは意思決定における人間の行動に現れることは知られていたものの、感情に直接現れることは確認されていなかった。このように、本研究は、意思決定における感情の重要性を示唆している。


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