題目:Lay Theories of Bullying by Content Analysis of Newspaper Articles

  (新聞記事の内容分析にみるいじめのしろうと理論)

氏名:柄崎 育子

指導教官:アラン・S・ミラー助教授


 

 いじめ問題はこれまで長い間議論されてきたにもかかわらず、未だに効果的な解決策は見つかっておらず、問題の論点はますます複雑化しているようにさえ思われる。そこで、効果的な解決策を探るためには、まず複雑化された問題の本質を明らかにする必要があるだろう。本研究ではマスメディアを世論の反映と位置づけ、過去21年間の新聞記事の内容分析によっていじめをめぐる議論の論点を整理分類し、その上でいじめのしろうと理論を明らかにすることを試みた。

 方法として、まず朝日新聞の過去21年間(1975〜95年)のいじめ記事を抜き出し、データベース化した。それをもとにコード表を作り、いじめ行為、加害者・被害者の属性、いじめの原因、いじめの現状、いじめへの対応という5つの側面から、いじめ記事の内容分析を試みた。分析の結果、主に次の3点が明らかにされた。

 

1.いじめ記事数は1985〜86年と1994〜95年の二つをピークとして激増している。注目すべき点は、それぞれのピークに含まれる2人の中学生の自殺事件よりも前に、いじめ記事が徐々に増え始めている点である。このことは、事件をきっかけに記事が激増したのではなく、いじめの議論や関心が徐々に高まっていたことが、これらの事件をセンセーショナルにさせたという可能性を示唆している。

2.加害者に比べ、被害者のとりわけネガティブな属性について圧倒的に多く語られている。この結果は、人々が被害者のネガティブな属性にばかり目を向けやすいという傾向を示している。これは同時に、人々が被害者のパーソナリティーに問題があると考える傾向があることを意味している可能性がある。

3.いじめの原因と対応が一致しない。例えば、人々はいじめの原因は加害者にあると考えているにも関らず、いじめの対応をむしろ被害者に求めている。また、非常にあいまいで実体のない、解決不可能な原因への対応を、警察や行政などの具体的な機関に求めている可能性が示唆された。

 

  以上の結果から、被害者のネガティブな属性に対する強いバイアスと、原因と対応の不一致という、いじめのしろうと理論の2つの問題点が明らかにされた。


卒業論文題目一覧