卒論題目:所有を感じる瞬間

氏名:庄 智子

指導教官:亀田達也助教授


自分が所有する物に高い価値を感じ$それを手放したくないと感じる現象のことを“授かり効果”と言う。つまり、同じ品物を評価させても、一旦所有物になった品物に対して高い評価を与える傾向をさす。この現象が本当に存在しているのならば、所有者・被所有者という立場に関わらず資源に対する価値(効用)は変わらない、という経済学の前提に対立することになる。そこで、過去の研究においては様々な手法を用い、その存在を検証しようと試みられてきた。それらの大半は、授かり効果の存在を支持するものであった。だが、一見授かり効果が生じているようにみえる従来の実験結果にも、代替説明の可能性が残されていた。そのうちの一つの「戦略的行動」は、自分が本当に取引をしても構わない、と思っている本音の取り引き量に、自分の利益を上乗せして交渉しようとする行動で、これは人間の意思決定において強力なヒューリスティクスとして働く可能性がある。また、先行研究では、被験者に自分の所有物ではない品物についての情報をあまり与えられないために、交換する対象の品物に「不確実性」を感じていた可能性もある。

 本研究では、これらの代替説明の可能性を排除してもなお授かり効果が見られることを確認するためにた実験を行なった。内容は、実験に参加したお礼の一部として品物が渡され、その後別の品物を被験者の手元に置き、交換の希望を問うというものであった。第1実験では、品物が渡されて2分後に交換の有無を聞いたが、このときには授かり効果はみられなかった。その原因として、最初に渡された品物の所有時間が短く、また品物を所有したという感覚が、被験者にあまり感じられていなかったことが考えられた。そこで第2実験では、実験が始まる前に品物を渡して所有時間を長くしたが、それでも授かり効果は見られなかった。よって、所有時間が授かり効果に無関係であることがわかった。さらに第3実験では、品物を渡す際に受取証を書かせ、所有したという感覚を引き出させるようにした。すると、第1実験%第2実験と異なって授かり効果が見られた。つまり、代替説明の可能性を排除しても授かり効果はあらわれ、被験者は、最初に渡され、所有物となった品物の方を選ぶことがわかったのである。

 授かり効果の起こる理由としては、所有物と認識するだけで、人は財や資源に対して心の中にいくつかのモードが存在しているということが考えられる。所有物であると定義した品物は、心が授かり効果の起こるモードに切り替わって価値が高まるが、所有物だと定義されなければ、モードが切り替わらないので価値が高まらないのではないのだろうか。


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