題目:The Study of Suicide in Japan 日本における自殺の研究

氏名:大西加寿子

指導教官:Alan S. Miller


これまで、田舎より都市の方がコミュニティやソーシャルサポートが少ないという理由から、自殺というものは都市に多いと信じられてきた。デュルケムの自殺論に代表されるように、共同体の結束力が自殺に関係しており、都市は社会的統合力が弱いため自殺が多いという考えである。しかし近代の日本社会において、社会的統合は都市において弱く、田舎において強いとは結論づけられないという指摘がある。

近年日本における自殺の研究では、社会的統合に関する新たなモデルが提案されている。近代化は数世代前に起こっているため、現在都市には安定したコミュニティが形成されているというものである。今や都市の方が豊富なソーシャルサポートが供給可能であり、その反面田舎は都市化の陰で無視されてきたという主張である。また、日本の自殺の特徴としては高齢者の自殺が多いことが挙げられ、孤独や厭世、家庭不和など心理的要因による高齢者の自殺に関する研究も数多く発表されている。こういった老人問題は都市化と切り離せない問題であるため、自殺と密接に関わっていると考えられる。

以上のことから都市化の指標の低いところほど、自殺率が高いのではないかという仮説を立てた。独立変数に人口、人口密度65歳以上の人口の割合を、また都市化の中でも特に高齢者の問題として1975年から1995年までの人口増加率、1975年から1995年までの65歳以上の人口増加率に日本統計年鑑から都道府県別データを用い、従属変数に自殺率を人口動態統計による都道府県別のデータを用いて、自殺率との相関を調べた。その結果、人口密度を除くそれぞれの変数については仮説を支持する結果が得られた。すなわち自殺率と有意な相関があった。特に着目すべき点は、高齢者の人口増加率と自殺率において強い正の相関が認められたことである。

急激な近代化は日本の社会構造を大きく変えてきた。しかし都市主体の近代化は、都市には様々なソーシャルサポートひいては安定したコミュニティをもたらしたが、田舎の住民はその犠牲となり無視されている。高度経済成長により物理的には豊かになったが、その反面様々な問題が特に田舎に放置されたままになっている。ここでは自殺問題に焦点を当ててきたが、精神的な豊かさのために学ぶべきことは多く、さらなる研究が必要である。


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