題目:合議の落とし穴

氏名:沼田 真紀

指導教官:亀田 達也 助教授


 グループの話し合いの過程は、基本的に多数派影響過程がはたらき、そのため話し合いの結果は偏ったものになりやすいことが知られている。しかし、正当な意見を唱える正当な意見を唱える少数派が、グループの他のメンバーに影響を及ぼすチャンスが存在しないわけではない。Laughlinらは、解の自明性の程度がこれに深く関わると主張する。これをより詳しく検討すると、少数派には多数派による弊害からグループを救い出す可能性だけではなく、逆にグループの決定の質を低める可能性もある事が明らかになる。Tindaleらは、個人レベルで過ちを犯しやすい課題を用いて、共有された表象の存在が少数派影響過程を起こりやすくさせ、グループレベルでの解が個人レベルでの傾向を強化する方向へ導かれる可能性を示している。つまり、誰もがもっともらしいと納得できるような選択肢は、他のグループメンバーに受け入れられやすいものであり、それが正しいものとしてグループ内で採用されやすくなる。結果、個人の誤りやすい傾向を、グループは更に悪化させるというのである。この考えに従えば、共有された表象に従うと正解を得やすい課題におけるグループの解は、個人レベルより更に正解の側に偏ることが予想される。本研究では、共有された表象に従えば正解を得やすい課題、誤りやすい課題の両方を用いて、このTindale説に従い、共有された表象がグループの問題解決にどう影響するかを検討する。

  実験は、三段論法課題を提示する質問紙を用いて行った。課題の結論部には、共有された表象の1つと見なすことができるであるステレオタイプが、を結論部に取り入れられており、日本人が共有するステレオタイプに従えば正解を得られる課題(日/正)と、、日本人が共有するステレオタイプに従えば誤答に導かれる課題(日/誤)、さらに日米比較を行うため、上と同様にしてアメリカ人が共有するステレオタイプを取り入れたもの(米/正、米/誤)、これらと比較するための、ステレオタイプとは無関係のもの(中/正、中/誤)の計6題からなるで構成された。なお、今回の分析では日本人データのみを扱い、日米比較は行っていない。

課題6(日/正)を課題1(日/誤)、課題2(中/正)と比較した結果、課題6における解への自信度は他に比べて高く、その傾向はグループレベルにおいてより顕著に見られるなることが示された。つまり、共有された表象に従って解を出せば正解を得やすい課題に対するおけるグループレベルでの解は、個人レベルより更に正解の側に偏る傾向が示されたといえる。また、課題1(日/誤)の社会的決定図式の分析から、グループの解は個人レベルより不正解の側に偏る傾向が示され、これはステレオタイプに頼った解答をしたためという解釈が可能である。全般的にグループは誤答の方向へ引きずられており、ステレオタイプの影響がうかがわれた。以上のように、本研究では、人々の間で共有された表象が影響することにより、グループレベルでの解は、個人レベルでの傾向(正解を得やすい、または誤りやすい傾向)を強化する可能性があることを示唆する結果が得られた。

集団の決定において、人々に共有される信念がより良い決定に導くことがある一方で、時にはそれを邪魔する存在となり得ることを理解しておきたい。


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