題目:ホスピスにおけるチーム医療の社会心理学的研究——H病院を事例として

氏名:隈元みちる

指導教官:結城雅樹 講師


近年ホスピスへの社会的ニーズが高まっているが、その運営には困難が多く、必ずしも十分なホスピス・プログラムが整備されていないのが現状である。ホスピスの究極的目標は患者のQOL (Quality of Life) の向上であり、そのためのプログラムの中心となるのが、「チーム医療」によるケア体制である。本研究の目的は、日本の代表的ホスピスであるH病院を事例として、チーム医療における様々な問題点を整理し、その実現への具体策を検討することにある。

筆者は、98年5月から9月まで、実習生として、医療相談室、PCU病棟ナースステーション、ミーティングなどを観察した。その後、地位・専門性がさまざまなスタッフ11人を対象とした面接調査を行なった(半構造化面接)。

結果は以下の通りである。H病院のチーム医療の特徴:(1)多面的なケアを実施するために、多様な専門職をスタッフにした。スタッフの専門性は、開院以降拡大している。(2)従来の「医者−患者」関係の非対称性を克服し、患者(とその家族)のニーズを的確に捉えるために、両者の媒介者としてMSW (Medical Social Woker) を配置した。(3)地域に根づいた病院にするために、ボランティアを常駐させた。問題点:(1)スタッフにチーム医療の必要性が理解されない、(2)チーム医療の望ましいあり方をめぐって、スタッフ間に齟齬がある、(3)新しい専門職およびボランティアの必要性が理解されない。対応:以上の問題点に対応するために、(1)ホスピスの理念、チーム医療の必要性について、教育・啓発がなされていた。(2)チーム医療の有効性、各専門職の必要性は、その有用性を実際に提示することによって、認知されていった。(3)今後更に、ナースステーションを拠点として、インフォーマルなレベルにおいても情報共有の徹底が図られることが望まれていた。これらが間断なく次々と実施されていることが、H病院におけるチーム医療の実践を支える重要な要因であることが示唆された。制度的・社会的背景:保険医療点数、インフォームド・コンセントの問題もあった。しかしそのいずれもが医療者だけで解決できるものではなく、広範な議論と公式の見解が必要とされている。


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