題目:フレーミング効果に集団サイズと状況要因が及ぼす影響

氏名:工藤 麻矢

指導教官:山岸 俊男 教授


 人間の意思決定については、これまで効用という概念を用いて説明がされてきた。Tversky & Kahneman(1981)は、獲得状況/損失状況における人間の意志決定の実験から効用曲線をプロスペクト理論として定式化し、獲得状況と損失状況とでは、異なった効用曲線が用いられること、また人々が同じ状況を獲得(Gain)状況と認識するか、損失(Loss)状況と認識するかに応じて、全く同じ結果を招く場面でも異なった意思決定を下すということを示した(フレーミング効果)。Wang(1996)は、人間の意思決定を適応という視点から説明しようと試み、集団が個人の生存に不可欠であり、集団の流動性は低いものであったという仮定をおいた。その場合、集団を維持するような意思決定をおこなうことが進化的に適応的であると予測した。そして、Tversky & Kahneman(1981)のアジア病問題を用いて実験をおこなった結果、Wangの予想通り、小集団時には集団を維持するような選択をおこなう傾向があり、そのような傾向はフレームに関わらず存在していた。

 しかし、Wang説以外にもWangの実験結果を説明することは可能である。小集団においては集団内の争いを避けるため、不平等を回避するような意思決定モデルが適応的であり、Wangの実験結果は、結果の平等を考慮したためであるとも考えられる。本研究ではWang説と自説と対する検証をおこなうため、Tversky & Kahneman(1981)のアジア病問題とお金、食べ物といった生死に関わらない課題を用い、それぞれについて確率を操作して実験をおこなった。

 アジア病問題において生き残る確率が高確率になるように確率を操作した場合、リスク回避的な選択をおこなうはずである。しかし、そのような傾向はみられず、Wang説は支持されなかった。また、もし自説が正しければ、お金や食べ物といった生死に関係ない課題であっても、Wangの実験結果はレプリケートされるはずある。結果、食べ物課題において自説は支持されたが、お金問題に関しては支持されなかった。その原因としてお金課題では、Gainフレームでは「お金を得る」、Lossフレームでは「お金を失う」というようにフレームにより違う話になっていることが考えられる。アジア病問題とは違う構造になってしまっており、課題設定が適切ではなかった可能性がある。

 結局、本実験では「小集団時には、集団を維持するような意思決定をおこなう」というWang仮説を棄却するにも、筆者の「小集団時には平等を考慮するモデルが働く」という仮説を支持するにも十分な結果は得られなかった。


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