題目:日本におけるノストラダムス・ブームの社会的背景
氏名:伊藤道子
指導教官:山岸俊男 教授
科学が進歩し、合理的な価値観が浸透しているはずの現代において、さまざまな非合理的なものが流行しているのはなぜだろうか。本研究の目的は、この非合理的なものの代表として、近年特に日本で話題になっている「ノストラダムスの予言」を取り上げ、その社会的背景を探るというものである。
日本におけるノストラダムス・ブームの火付け役と考えられるのは、五島勉の『ノストラダムスの大予言』(1973)である。この著書には、ノストラダムスが1999年の人類滅亡を予言したと書かれてある。人々がこの予言を信じるきっかけとなった1973年は「オイル・ショック」の起こった年である。この頃から日本では神秘・呪術ブームが始まった。実際、NHK放送世論調査所(1984)は、1973年頃から、戦後20年あまり続いた日本人の脱宗教的な傾向が逆転し、再び宗教に近づきつつあることを指摘しており、これを宗教回帰現象と名づけている。さらに、「宗教回帰」の発生した理由を3つの側面から考えている。(1)規範の変化と宗教、(2)科学と宗教、(3)経済大国化と宗教、である。特に科学と宗教の関係で、人々が公害問題や核兵器問題などの深刻化から、科学不信の念を抱くようになった反面、「非合理的なもの」「神秘的なもの」に興味を示すようになってきた、という説明がノストラダムス・ブームに直接関係してくるのではないかと考える。
また、1973年以降の神秘・呪術ブームを語る上で、「宗教回帰」とともに重要なものとして「宗教情報ブーム」が挙げられる。現代の宗教ブームは、実際に人々の宗教そのものに対する関心が高まっているわけではなく、宗教に関する話題自体が大量に消費される、「宗教情報ブーム」である(井上,1992)とも言える。特に現代の若者は、「神秘的なもの」に興味を示す傾向があるのだが、これは「宗教情報ブーム」による影響が大きいだろう。つまり、子どもの頃からマスコミによってオカルトに肯定的な情報を刷り込まれてきた結果、現代の若者の「神秘好き」傾向が形成されたのではないかということである。
以上のことから、現在のノストラダムス・ブームは、1973年以降の「宗教回帰」をきっかけとし、その後マスコミによる「宗教情報ブーム」に影響を受けた、一部の「若者の神秘・超常信仰」によって支えられていると考えられる。