題目:対人評定と行動予測

氏名:平石 希

指導教官:山岸俊男教授


 われわれは、相手の行動を予測する場面に出会ったとき、自分の相手に対する印象を手がかりにして予測を行なっている場合が多い。しかし、囚人のジレンマゲームを用いた先行研究では、被験者の印象評定が必ずしも予測を行う際の手がかりになるわけではないことが確認されている。ここで言う印象評定とは、個々の被験者がターゲット(相手)をどう思うか、という「評定する」立場からの分析にとどまっている。では、"評定される#立場から印象評定を考えてみるとどうであろうか。そこで、本研究では、印象評定について、従来の「評定する」立場からの分析に加え、新たに「評定される」という立場からも分析を行い、その上で両方の立場を交差した、印象評定と行動予測の関係について検討することを目的とし、実験を行った。

 実験には先行研究と同様、囚人のジレンマゲームを用いた。被験者は自分の行動(お金を"渡す#か"渡さない#か)を決定したあと、自分以外の被験者の行動について、それぞれに予測を行った。印象評定は初対面の時と、しばらく時を経たあと(約3ヶ月後、囚人のジレンマゲーム及び予測の直後)の2回行った。なお、評定は操作的にターゲットを作らず、全評定者が同時にターゲットになるという状況で行っており、これは従来の研究と本研究の大きな相違点である。

 実験の結果、まず、「評定する」立場からの分析では、他者への予測("渡す#/"渡さない#)と印象評定との関係は見られたものの、評定とそのターゲットの実際の行動との関係は見られなかった。これは先行研究と一致する。次に、「評定される」立場からの分析では、他者全体からの評定と、ターゲットの実際の行動との間に関わりが見られた。具体的に言うと、実際に"渡す#を選択した人は、他者全体から「頭の良い」、「魅力のある」、「信頼できる」などの項目でポジティブな評価を受けている。しかもこれは、2回目よりも1回目の評定により強く見られる傾向であることが示された。つまり、1回目の他者全体からの評定の方が2回目の評定よりも行動を予測している傾向があると言える。この傾向は、多変量解析による分析によっても確認することができた。この結果は、我々の日常生活においてある人を判断する場合、一人一人がどう見るかではなく、全員がどう見ているかを合わせて、全体的な評価で見てみる必要があるという、重要な示唆を与えているだろう。

 本研究は、データ数が限られていたことなど多くの改良すべき点が存在する。しかし、「行動予測を行う際には、ある程度関係を構築した後での印象よりも、第1印象の方が重要であり、同時に、個々の目ではなく、集団全体としての目から見た印象が重要である。」という知見は本研究で新たに得られたものであり、今後、より深い研究が求められる。


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