題目 高齢者の社会的環境に関する考察

氏名 柚木早苗

担当教官 山岸俊男教授


 本研究は、高齢者の孤独感の要因を明らかにし、高齢者の孤独感を低減するための方策について考察するものである。我が国では高齢化が進むにつれて様々な問題が起きているが、その背景として高齢者の抱える孤独感が指摘されている。人は高齢になるに従って多くの社会的喪失を経験し、孤独に陥りやすくなる。また、他の年代に比べ、高齢者の孤独はより深刻な意味を持つ。そのため、高齢者の孤独感の要因を明らかにすることは重要であると考えられる。孤独感の要因は、個人的性格特性と社会的環境の2つに大別される。このうち本研究においては、高齢者の孤独感に対処するという点でより現実的な社会的環境要因に注目した。

 在宅の高齢者のうち、デイサービス利用者を対象に聞き取り調査を実施した。質問内容は、孤独感の程度を測定するもの、性別や年齢などの基本的属性に関するもの、及び社会的環境に関するものであった。

 分析の結果、周囲の認知についての変数と、さらにそれを説明する具体的な環境を表す変数によって、孤独感の要因を示すモデルが得られた。孤独感と直接関連のあった変数は、「周囲」と「気心」および「旧友の人数」であった。これらの3つの変数は、全て「本人にとって心理的な距離が近い人がどれだけいるか」を表していると考えられる。物理的な距離にかかわらず、心理的距離が本人にとって近い人々は、精神的なサポート提供者であるといえる。このような人々がどれだけ存在するかが、高齢者の孤独感に影響を与えると考えられる。

 配偶者の有無や同居家族の人数よりも、古い友人の数が孤独感のより強い要因であった。このことは、「高齢者の孤独感を低減するのは、家族よりもむしろ友人である」という先行研究の結果と一致している。これは家族が規範的に統制されている関係であるのに対し、友人との関係は選択的で相互依存的であるからだと考えられる。

 また、在宅福祉サービスが、高齢者の孤独感の低減に役立つ可能性が示唆された。在宅福祉サービスは高齢者が快適に生活するためのサービスであると同時に、「人とふれあう」という欲求を満たすものなのではないか。特にデイサービスは、外出の機会を保証し、他者との相互作用の機会と場を提供することで、高齢者の孤独感を減少させることに寄与していると思われる。よって、このような福祉サービスを充実させていくことは意義のあることであると考えられる。


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