題目 「人を見る目、ありますか?」― 他者の信頼性判断の正確さに関する探索的研究 ―

氏名 品川美智子

指導教官 山岸俊男教授


 本研究は、対人場面における「人を見る目」、すなわち他者の意図を正確に判断できるか否かの個人差が、何によってもたらされるのかを解明するための探索的研究である。

 テレビに出ている芸能人を見て性格が良さそうだと思ったり、クラスメイトに対して信頼できそうな人だと思うなど、他者の行動や特性を判断する場面は日常生活において数多く存在する。相互作用のない状況での他者についての判断を扱っている先行研究は多数ある。しかし、他者についての判断の正確さは、他者との相互作用を仮定した状況においてその重要性が一層高いと考えられる。なぜなら、一方的に他者を判断する状況で判断を誤ってしまうよりも、他者と相互作用がある場合に判断を誤ってしまうときの方が、他者からの影響がある分、自分の利害に大きく影響する可能性が高い。そこで本研究では、他者と相互作用のある状況で、自分の利害に大きく影響する意味で特に重要だと考えられる、他者の「信頼性」についての判断の正確さに焦点を当てる。ここでは、他者の信頼性の判断を正確に行なうことを「見極め」と呼ぶ。

 他者と相互作用のある状況、すなわち社会的交換場面において、見極めの精度に個人差がある可能性は、先行研究の結果より示唆されている。では何故、そのような個人差が生じるのだろうか。他者と実際に対面して会話を交わせる状況では、他者の表情や雰囲気、会話の内容などから、判断する際の多くの情報を得ることができる。筆者は、他者に対する見極めができるかどうかは、これら多くの情報の中から、信頼性に関わる情報をどれくらいうまく抽出できるかにかかっているのではないかと考えた。そこで、見極めのできる人とできない人の間で情報処理過程に何らかの相違がある可能性を解明する目的で、実験を行った。

 実験の結果、外見と信頼性には関係はなかったにもかかわらず、見極めのできない人は、相手と実際に対面している場合では外見で相手の信頼性を判断するが、相手と相互作用のない場合(相手が実際の人物ではなくイメージであったり、写真である場合)では、外見で相手の信頼性を判断していないという結果が示された。つまり、見極めのできる人とできない人では、相手と相互作用のある場合にだけ、外見で相手の信頼性を判断してしまうかどうかが異なる可能性が示唆された。この結果は、相互作用のない状況での他者に対する判断を扱ってきたこれまでの先行研究からだけでは予測できなかった、新たな知見であるといえる。


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