題目  人々の「いじめ」観−インタビュー・データを用いた探索的研究−

氏名  佐藤真大

指導教官 山岸俊男教授


目的:本研究の目的は、人々の「いじめ」観を探ることである。本研究が対象とする「いじめ」観には、人々が自覚的に「いじめ」の定義や原因などについて持っている信念−いわば俗説と、人々にとって必ずしも自覚的ではない、「いじめ」についての認識・思考の方法のふたつがあると考える。これらの「いじめ」観は、様々な形で実際の「いじめ」の現場で、「いじめ」に直接関わる生徒や教師の行動などに影響を及ぼしていると考えられる。したがって、この「いじめ」観を解明することには意味があるだろう。

方法: 個人面接による聞き取り調査を行なった。

調査実施日時:1996年12月〜1997年1月、1997年10月〜1997年11月

調査対象者:大学院生3名、フリースクールの生徒5名(1名の卒業生を含む)、同スクールの教師2名

結果と考察: 会話の内容から「いじめ」観を探るため、以下の5つの分析を行った。
@加害者・被害者の属性・理由・状況に関する発話数の分析
A加害者像・被害者像の分析
B人々の「いじめ」の原因観の分析
C人々の「いじめ」の解決観の分析
D発話の先行順序の分析

上述の分析により明らかになった主要な結果とその背景について以下に考察する。

1.被害者が着目されやすい。

 この背景として、経験が記憶、体制化される過程において、「いじめ」という攻撃の形態が影響を及ぼしているということ、「被害者にも問題がある」とする信念が、優先的に記憶する対象として被害者を選び、その結果、記憶の想起の過程において、被害者に目を向けやすくさせていることが考えられる。

2.「むかつく」という叙述が多い。

 この背景として、「むかつく」という表現は、加害者の「いじめ」行為を誘発する何らかの被害者のネガティブな特性を想起させる性質を持つこと、「むかつく」という言葉が「いじめ」の原因を表わすという意味で加害者にとって非常に便利な意味を持つということが考えられる。

3.「分かり合い」という解決策が多い。

 この背景として、「いじめ」の当事者である子どもは、発達段階にある未熟な存在であるゆえ、加害者を処罰する以前に正しい方向への発達を促すべきであるという信念があること、人々は「いじめ」を、犯罪的行為としてではなく、生徒間の人間関係のトラブルとして認識していることが考えられる。

 最後に、本研究での分析結果から、次のようなインプリケーションが考えられる。まず、 「いじめられる側にも問題がある」とする「いじめ」観を広く人々が共有しているとすれば、人々は、「いじめ」の状況そのものに基づいてではなく、被害者に原因があるとする「いじめ」観に基づいて原因を判断してしまうことが考えられる。次に、「分かり合い」を多くの人が解決策としてあげているが、解決策として無批判に「心」のみに焦点が当てられることが問題であり、ひいては他の解決策を模索する作業を阻害することにもなりかねないのである。


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