題目 集団間相互作用における認知的枠組みの効果
氏名 山保貴代
指導教官 篠塚寛美教授
現在、世界各地で、民族紛争など集団間の争いが絶えず生じている。集団間の葛藤を解消するには、自集団の事だけ考えるのではなく、集団の枠を超えた広い視点を持つことが必要であると考えられる。しかし、集団間の葛藤状況をモデル化したダブルジレンマゲームを用いた先行研究は、集団間で協力し合うことが可能であるにもかかわらず、人々は集団内の協力の方に目が向きやすく、したがって、集団間葛藤の解決が困難である事を指摘してきた。
本研究は、集団間葛藤の解決を困難にしている要因の一つについて取り上げる。
例えば、国籍の違う2人の関係と、2国間の関係について考えて見ると、個人間よりも集団間の関係の方が、友好関係を保ちにくく、競争的になりやすいと感じないだろうか。集団間の相互作用が個人間の相互作用よりも攻撃的・競争的になるという現象は、「個人間―集団間相互作用の不連続性効果」と呼ばれる。果たしてこの不連続性効果は、集団内で相談などの相互作用が行なわれることによって生じるものなのだろうか。それとも人が自分のおかれている状況を「集団間相互作用である」と認知するだけでも生じるものなのだろうか。本研究では、個人レベルの利得構造は同じで、個人間の相互作用であるという認知を与えるか、集団間の相互作用であるという認知を与えるかという認知の違いでも不連続性効果が生じるのか検証した。具体的には、4人からなる2つのグループにダブルジレンマゲームを行わせるという実験を行なった。
結果は、認知的枠組みの違いだけで不連続性効果は見られなかった。しかし、集団内の成員に対する仲間意識や一体感、およびそれらを他の人も持っているという期待(これらを合わせた尺度を本論文ではグループネス意識と呼ぶ)を強く持つか、弱く持つかに個人差があった。そして集団間相互作用であるという認知的枠組みを与えられ、グループネス意識を高く喚起した人は、そうでない場合よりも、集団内への協力に目が向いており、相手集団に対して競争的行動をとる傾向があることが明らかになった。この結果は、集団間相互作用という認知的枠組みを与えることによって、集団間協力より集団内協力の方に目が向きやすくなり、集団間葛藤の解決が困難になることを示している。