題目: 「親の言うこと、ききますか?−心理的リアクタンスに関する研究−」

氏名: 鈴木晴香

担当教官: 山岸教授


 人に命令された時、反発を感じて相手の命令に従わないことがある。説得された時に生じる反発は「心理的リアクタンス」(以下、リアクタンス)と呼ばれ、なぜこのような感情が生じるのかについては「心理的リアクタンス理論」(Brehm, 1966; Brehm & Brehm, 1981)によって説明されている。しかし、同理論には限界があり、しようと思っていることをしなさいと言われると、そうでない場合よりもリアクタンスが大きいという現象の説明が不十分である。

 そこで、本研究ではリアクタンスは不当な強化を防ぐ機能を持つという観点から、この現象の新しい解釈を試みた。

 AがBに命令をする場面を考える。BがAの命令に従えば、 AはBのことを簡単に命令に従う人だと思い、繰り返し命令をする可能性がある。つまり、命令に従うことが、AのBに対するコントロール感を強化するのである。 自分がしようと思っていることを命令される場合を考えてみる。このような時は、自分がしようと思っているため相手の命令は不必要である。相手の命令に従えば、相手のコントロール感を強化する結果となり、これは不当な強化だといえる。命令された側はこのような不当な強化を避ける必要がある。そして、この役割をするのがリアクタンスなのである。ただし、命令に従うことが不当な強化となるのは、命令をする人とされる人との付き合いが長期的な場合に限定されるだろう。なぜなら、短期的な付き合いの相手であれば、繰り返し命令されることがないため、強化とはならないからである。以上をまとめると、次のような仮説が導き出される。

 仮説1:何かを命令・要請された時に、自分がそれをしようと考えていた場合は、そうでない場合よりもリアクタンスが大きい。

 仮説2:仮説1の効果は、説得者と被説得者の長期的なつきあいが見込まれる場合に 顕著に表れる。

 以上の仮説を検討するために、被験者に様々な場面の設定されたシナリオを読んでもらい、そのような状況でどう感じるか、どう行動するかの回答を求める、という形で実験を行なった。分析の結果、場面設定法というノイズの大きい手法で行なった実験であったにもかかわらず、いくつかのシナリオで仮説は支持された。

 本研究によって、強化の原理を用いたリアクタンス解釈が可能であることが示唆され、新 しいリアクタンス解釈の道が開かれたといえるだろう。


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