題目: 協力者と非協力者の顔の記憶 —非協力者の写真は再認されやすいか—
氏名: 馬 麗麗
担当教官: 山岸俊男
主な実験:
実験① 先行実験では、PDゲームで協力か・非協力かを決定し、その後報酬を受け取る際に、被験者の承諾を得た上でとった写真90枚の写真から36(男・女、協力・非協力半々)枚を刺激として使い、写真の再認実験に用いた。実験のデザイン:一つの画面に18枚の画像(写真と紋章)を30秒提示し、その後フィラー写真を含む写真から1枚ずつ提示したかどうかを判断させる。被験者:北大生23名(男性16、女性7)、高校生14名(男性2、女性12)、計37名。実施期間:2001年7、8月。
実験② 実験1と同じ90枚の写真から56(男・女、協力・非協力各14)枚を刺激として、写真の再認実験に用いた。56枚の写真を教室でスクリーンに1枚ずつ提示し、その後フィラー写真を含む写真リストの中から、スクリーンに提示されていた写真を選ばせたと同時に各写真について、魅力度の評価も行ってもらった。被験者:苫小牧医師会付属看護学校の生徒55名。実施期間:2001年10月。
実験③ 繰り返しのPD実験で協力傾向の高い人の協力した瞬間の写真と非協力傾向の高い人の非協力した瞬間の写真30(男・女、協力・非協力半々)枚を一枚ずつ提示し、そのその後フィラー写真を含む全部で60枚の写真を被験者に再認させた。被験者:北海道大学の1、2年生75(男性48、女性27)名である。実施期間:2001年10、11月。
★各実験で使用する刺激は、顔に特徴のある写真を除いて、髪形や服装をコントロールしたものである。第1、2実験で提示する写真は、同じ写真であり、被験者はそれぞれ北大生、高校生である。第1、2実験と第3実験で使った刺激はそれぞれ、1回限りのPDでの非協力者写真と繰り返しのあるPDでの非協力行動をとっているときの写真である。
被験者と刺激が変わっても非協力者が再認されやすという一貫した結果が得られている。
本研究とこれまでの研究との主要な違い
本研究では非協力者が覚えられやすいという一貫した結果が得られた。この結果はこれまでのMealey(1996)やOda(1997)の研究結果と一貫している。しかし彼らの実験では、いずれも協力・非協力という架空の情報をその写真の属性として被験者に提示していた。これに対して本研究では、それぞれの写真人物のPD取引での実際の行動を用いて協力者と非協力者の写真を準備したが、それぞれの写真人物がPD取引で実際に協力行動を取ったか非協力行動を取ったかは被験者には提示しなかった。従って、本研究の結果はMealeyやOdaの研究結果とは表面的に一貫している。しかし本研究では、写真人物が協力者なのか非協力者なのかを被験者に一切提示しなかったにもかかわらず、非協力者の写真が再認されやすいという結果が得られている。この点で、彼らの研究とは異なっている。
第1と第2実験で提示した写真人物は、1回限りの囚人ジレンマ実験の被験者であり、第3実験で使用した写真は繰り返しのある囚人のジレンマ実験で、協力傾向の強い被験者が協力した瞬間ないし非協力傾向の強い被験者が非協力した瞬間にとられた写真である。
考察:
実験の結果として、いずれも非協力者が記憶されやすいという結果を示している。しかし、外見的魅力の高い人は取引相手として選ばれやすいことが先行研究により確認されている(Dion, 1972; Feingold, 1992; 菊地・山岸,1998)。このことから、魅力度が顔の覚えられやすさに大きな影響を与えている可能性が考えられる。そこで、本研究の結果において、魅力度という要因が写真の再認率にどのように影響しているのかを検討した。魅力度の高低と関係なく、全ての実験において一貫して非協力者は協力者よりも再認されやすいという結果が得られた。今回の実験結果で重要な点は、被験者は写真人物が協力者であるのか非協力者であるのかを知らないまま、以前に実施された囚人のジレンマ実験で非協力行動を選択した人物の写真を、協力行動を選択した人物の写真よりも、より高い比率で再認していた点である。この結果は、囚人のジレンマ実験で非協力行動を取った人物の外見的特徴と、協力行動を取った人物の外見的特徴との間に何らかの違いが存在していて、またその特徴の違いを被験者が無意識的に認知していることを示唆している。この特徴が魅力度と関連している特徴ではないことが、上述の結果により明らかにされている。今後の研究では、PD実験での協力者と非協力者の外見的特徴にどのような差が存在しているかを特定する必要がある。