Joseph Henrich
(ブリティッシュコロンビア大学)
Cultural learning, institutions and the coevolution of human sociality
発表では、人間の社会性の理解をいかにして進めるかについて、現時点での進化生物学、人類学、行動経済学、社会心理学などの学問分野の最先端の動向を紹介しつつ、新たな展開の可能性について議論された。まず、自然淘汰による考え方が紹介され、それにより人間の社会行動(誰と社会的交換を行うか、N人集団での相互協力はいかにして維持されるか、等)の一部分は説明可能だが、それでは全てを説明するには到底不十分であることが指摘された。なぜなら、その考え方は人間以外の生物種にも適用可能であり、人間社会の複雑性を説明するには至らないからである。そこで、人間固有の要因として、文化的学習能力、即ち模倣が想定される。模倣能力は情報探索コストを大幅に軽減できるため、適応的であり、これにより様々な規範や制度が均衡状態として成立可能となる。しかし、ここまでの段階では、複数均衡がモデル上存在し得るため、進化の過程でどこからスタートするか、また共貧状態からいかにして脱出するかという問題が残ることが指摘された。これを解決するためには、文化的集団淘汰を導入する必要がある。これは、うまくいっている集団における規範や制度が他集団に広まることであり、実験室及びフィールドでの知見が蓄積され始めていることが紹介された。そして最後に、文化的集団淘汰により遺伝子=文化共進化が実際に生じてきた可能性もあることが示唆された。